『アンドロメダアンドロメダ』では「あなた」と逢えない




ナユタン星人のボーカロイドデビュー曲である「アンドロメダアンドロメダ」。今回はこの曲の、主に歌詞について考えていこう。

歌は初音ミクなのだが、ナユタン星人の場合はかなり独特な声音や歌い方をさせている。音色や動画の形式もこの時点でほとんど完成しており、事前に計画を相当練っていたのだろう。当然タイトルも歌詞もすでにほぼ完成形と言っていい出来になっている。

このデビュー前からの入念な準備を思えば、人気が出るのは何も不思議なことはない。

ただ、だからこそ歌詞の中身に関してはポップな飾りつけが出来上がりすぎているがゆえに、意味が読み取りにくいところがある。

「宇宙」「SF」、場合によっては「恋愛」の要素さえも一種の飾りつけであると見なしたほうが、歌詞を理解しやすくなるのだ。見せ方のテクニックの部分ではなく、何を言っているのかを中心にここでは考えていく。

歌詞を読み解く上での注意事項は他にもある。

2017年に発売された「ナユタン星からのアーカイヴ」のあとがきによると、ナユタン星人は歌詞にはいつも複数の意味やストーリーを組み込んでいるのだそうだ。

つまり、一つの曲であっても解釈は一通りではないということを大前提として考えなければならない。

しかしそれは正解が存在しないということではない。ただ、あまり具体的なストーリーやシチュエーションに囚われないほうがより、ナユタン星人の意図に近づけるだろうとは思っておいたほうがいいかもしれない。

それと、ここで書くのは筆者の「思考」そのものだ。もちろん後から見てあまりに的外れだと思った解釈ははずしておくが、「答え」だけを書くということはしない。というより、できない。断定的に言っていたとしてもどこまでいっても推測でしかないのは気に留めておいてほしい。もちろん、他の解釈を否定するものではないが、より作詞者の意図に近いと思われる解釈を探っていきたいと考えている。

ではそろそろいい加減、「アンドロメダアンドロメダ」の歌詞の中身を考えてみよう。ただ、歌詞そのものは歌詞カードを見るなり検索するなりしてみてほしい。

歌詞全体として、宇宙を想起させるワードが散りばめられている。というか詰め込まれている。

それらは比喩的に考えたほうがいい。たとえば歌詞一行目の「宇宙人」とは意味的には「未知の存在、よく理解できない存在」。「ワレワレ」なので複数人いることになる。

同じように考えてみると、「校舎の裏」は「人気の少ないところ、ひっそりしたところ」。

「コンタクト」はそのまま「接触」とも取れるが、「連絡」のほうとも考えられる。

「校舎の裏から」となっているので、「人気の少ないところから複数の人々が別の存在と接触した」とも取れるし、「人気の少ないところから一人が一人に対して連絡した」というようにも取れる。この場合、「ワレワレ宇宙人」とは「コンタクト」する側とされる側の両方を指すことになる。

のだが、この調子で最初から順番にやっていくのはさすがに複雑すぎるしややこしすぎる。後から解釈を修正しないといけなくなるかもしれないし。

だからとりあえず比較的意味がはっきりしているサビの部分から全体像を想像してみよう。

一回目のサビでの「答えておくれ」「あなたとわたし永久に逢えないの」と、二回目のサビでの「応えておくれ」「あなたとわたし永久に逢えないの」は、音で聞くと同じだが、意味は異なる。

「答え」の字は質問への回答のときに使われる。ということは、一回目の「あなたとわたし永久に逢えないの」は、最後に「?」がつく疑問系だということになる。

一方で二回目のサビでの「応え」という字は、相手からの反応のことを示す。だから「応えておくれ」は反応が返ってきていないからこその願いであり、従ってこちらの「あなたとわたし永久に逢えないの」は諦めのようなニュアンスだ。こちらも最後に何かつけるとしたら、「?」ではなく「・・・」だ。

だから一回目のサビの後半にある「あなたに恋してる」ことに「気づいておくれ」という想いは、二回目のサビでは気づかれないことによる諦念に変化しており、「忘れておくれ」という言葉に取って代わることになる。恋が成就しないことを受け入れた上で自分のことを忘れてほしいと言っているわけだ。

この解釈を採用するとすると、この曲は片想いの歌だということになる。しかも気づかれないまま終わるような恋の歌だ。「永久に逢えない」という言葉は「心の距離が近づくことがない」ということだと考えられる。

「逢う」であって「会う」ではないのは、「逢う」は一般的に親しい間柄の人同士のときに使われ、一方で「会う」には心情的な意味はなく、物理的に人とあうときに用いられるからだろう。つまりこの場合は「恋人として逢うことが永遠にできない」という意味だ。

この結論から逆算するように、その他の部分の歌詞も考えてみるとしよう。

「プラズマ」「超電波」「大放電」「エレキテル」「光線」は、電気のイメージが想起させられる単語だが、それが何を意味しているかは歌詞の中にある。「届ける想いは超電波」とある通り、恋心を含む感情を、電気的なイメージに重ねているのだろう。

ただし、「あなたを狙う」という「プラズマ」や「光線」は、おそらく恋愛感情から来る行動のことを示している。簡単に言うなら、恋愛におけるアプローチのことだ。

「校舎の裏」「放課後」という単語からは学校が思い浮かぶ。ならば「屋上」も学校の屋上のことかもしれない。「裏山」があるあたり田舎っぽさもあるが、このあたりの言葉の選び方は年齢やシチュエーションをイメージさせるための仕掛けだろう。

「奇跡体験」「秘密クラブ」はおそらく「あなたとわたし」の接点だ。「奇跡体験」を超常現象的なものではないと仮定すると、恋に落ちた過去の瞬間のことか、もしくは恋をしている状態の「わたし」が「あなた」と奇跡的な偶然によって一緒にいられる時間のことを示しているのかもしれない。

だとすると「秘密クラブ」のほうも説明できる。「奇跡体験」の延長としての「秘密クラブ」だと考えることができるからだ。つまり、一度目は奇跡によって接点ができ、その後二人のクラブ的な関わりが継続しているということなのではないだろうか。中身は何でもいいが、共通の趣味などを知り、それを口実にして定期的に会うような関係性だ。

「ギャラクシー」は銀河。なので「渦巻く想い」と対応している。恋心の表現とみていいだろう。「ミステリー」は謎と言うより神秘のほうが近いと思う。「感じているギャラクシー」と「感じてほしいミステリー」はどちらも「わたし」の心の中のことを示している。

「観測はあなた次第」の部分からは、告白などの直接的な言葉によって関係を進展させようとはできていないことが読み取れる。「密かに撃ちぬく」という表現からもそれはうかがえる。

「裏山で大放電」。このあたりの歌詞が一番読み解きにくい。しかし電気のイメージが恋愛感情から来る行動であることから考えると、「大放電」という言葉には、何に向けてなのかという部分が欠けている。要は感情の爆発だとか、叫ぶ、喚くなどの、とにかく発散するというようなニュアンスのように感じられる。

「赤色光ったエレキテル」。エレキテルは電気、電流の他に摩擦起電器というものを指す言葉でもあるらしい。摩擦の意味が含まれていると見るべきかどうかはよくわからないが、少なくとも赤という色には攻撃的なイメージや危険なイメージがある。となるとやはりこれも感情が高ぶっている様子なのではないか。

「怪音」と聞くとなんとも奇妙な音なんだろうと思ってしまうが、この流れで考えると喚き声とか泣き声とか暴れる音とか、そういうことになるだろう。とだけ言ってしまうとまるで異常行動のようだが、「とおくで響く」のはそこが「裏山」だからであり、なぜそんなところでそんなことをしているかと考えれば、なるべく誰もいないところに行きつつも抑えきれない感情を発散させなければ正常ではいられない、という精神状態にあるからではないか。

「夜中の3時」という時間帯は、要するに眠れないということであり、誰も起きていない、一人であることが浮き彫りになる時間帯だ。このあたりの感情の持て余しかたは、実に思春期っぽく、シチュエーションには合っている。

「彼方の宇宙であなたに恋してる」「あなたと宇宙は本当によく似てる」。「彼方」と言っていることからも、「わたし」は「あなた」が遠いと感じていることがわかる。つまり片想いだと感じているということだ。

しかし、である。

「宇宙」という言葉が示すものがなんとなくしかわからない。「あなたと宇宙が似ている」とは、どういう意味なのだろうか。

ここで一番最初の歌詞に戻ってみる。

「ワレワレは宇宙人ダ」。複数形にはなっているが、これ以降「わたし」と「あなた」以外に登場人物は出てきていない。

となると、「ワレワレ」とはやはり「わたし」と「あなた」の両方を含めた言い方なのではないだろうか。「わたし」も「あなた」も「宇宙人」である、と。

この曲の中の歌詞における「宇宙」、「宇宙人」とは何だろう?

ヒントは当然、歌詞の中にある。

「ギャラクシー」と「ミステリー」だ。

「渦巻く想いは恋心」とあるので、銀河はすなわち恋心のことである。そして、「宇宙」と「銀河」では、「宇宙」のほうが大きい。「宇宙」の中に「銀河」があるのだから、当然だ。

ということは、「銀河」を一部分として持つ「宇宙」とは、「恋心」を一部分として持つ「心」それ自体に対応しているのではないだろうか。だから「よく似てる」なのではないか。

「感じてほしいミステリー」とは「わたし」自身の心や人格に向き合ってほしい、という意味合いだと考えられる。

となるとこのとき、「わたし」にとっての「あなた」だけでなく、「あなた」にとっての「わたし」も「ミステリー」であり得るのだということを言っていることになる。

「心」が「ミステリー」なのは確かにそのとおりだろう。自分の心でさえ自分にとってミステリーであり得るのだから。

そう考えると、「心」と「宇宙」はよく似ていて、それは両方ともが「ミステリー」であるからだ、ということをこの曲の歌詞が示しているということになる。

それがこの部分。「あなたと宇宙は本当によく似てる」だ。

ただ、もう少しだけ考えたい。

もう一度、「ワレワレは宇宙人ダ」の部分だ。

「宇宙人」を、「ミステリー」である「宇宙」を内包した人間であると捉え直すことができるのだ。「宇宙」とは、不思議な、理解の難しい心のこと。

そんな心を有することをもってその人が「宇宙人」であると定義することができるならば、それは「わたし」や「あなた」だけには留まらない。自分の心は他人からも自分自身にとっても理解しきれるようなものではないのかもしれないからだ。

つまり結論としてはこうなる。

「ワレワレは宇宙人ダ」。

そう、我々もまた、宇宙人だったのだ。

恐ろしく綺麗にまとまってしまったが、手当たり次第に言葉を拾って考えていたために解釈の中身のほうがまったくまとまっていない。

あと「パルラパルラ」らへんを軽く無視してしまっている。最初の曲なのでまったく意味がないとも思えないが、かといってそこまで深い意味や暗号が隠されているとも思いがたい。おそらくこのあたりは電波通信の音のようなイメージを想起させるための歌詞なのではないかと思う。

そういえばタイトルの「アンドロメダアンドロメダ」もここまで完全に放置している。が、もういっそ一番最後に回そう。解釈のまとめに入る。

「ワレワレは」から「超電波」まで

一番最初の部分は先ほど考えたとおり、意味が歌詞全体にかかっている。いわば結論なので、時系列的に捉えることはできない。

従ってその次の「校舎の・・・」からストーリーとして捉えることができる部分になる。

といっても具体的に何をしているかはわからない。ただ、「校舎の裏からコンタクト」という言い方は、別の場所への接触という意味のように思えるので、別の場所にいる「あなた」に対する働きかけをした、となる。

「プラズマ」や「超電波」が「あなた」への働きかけの手段だとしたら、具体的な例として考えられるのは、電子機器を通じて「あなた」を「校舎の裏」に呼び出した、というような感じだろうか。告白のようなシチュエーションだ。

「放課後の」から「渦巻く想いは恋心」まで

時間帯は「放課後」。「奇跡体験」と言うといいことのような気がするのだが、この後の展開や歌詞全体の意味合いからして、さっきの流れのまま告白が受け入れられた、とは考えにくい。

「観測はあなた次第」というのは、「ギャラクシー」つまり「恋心」がこちらにあるのに気づくかどうかはあなた次第、というように受け取れる。この場合いわゆる告白はしていないのだから、「奇跡体験」は別のことだということになる。たとえば後日会う約束を取り付けた、だとか。

あるいは告白はしたものの答えが保留されたために「あなた次第」と言っている場合もあり得る。この場合、一回目のサビの「答えておくれ」は告白の答えともかかっているのかもしれない。

一回目のサビ

「永久に逢えないの」はやはりより親しい間柄になることができないのかという問いかけだろう。一番わかりやすいのは恋人にはなれないのだろうか、ということ。「気づいておくれ」が恋心にということであるなら、やはり直接的な告白はしていないのかもしれない。別のことに関する言葉である可能性ももちろんあるが、とりあえずはこのまま進んでみよう。

「彼方の」の部分の歌詞は、やはり遠いと感じているということなので、少なくとも想いが成就したような印象は受けない。ただ、この時点では完全に諦めているようにも思えない。もしそうなら「気づいておくれ」という願いは出てこないはずだからだ。

「裏山で」から「近所迷惑」まで

「夜中の3時」に「裏山」にいるのはおそらく「わたし」のほうだろう。というか、他の解釈をするにはだいたい超常現象が必要になる。この曲の歌詞は「わたし」視点なのだと考えてきたので、「あなた」が一人でいるとは考えにくい。「わたし」が「とおく」からそれを見たり聞いたりしているという可能性も残されてはいるが、どうも他の歌詞と意味合い的に繋がらない。

また、「わたし」と「あなた」がその場所に一緒にいるとも考えにくい。この場面がその後になんら影響を与えていないように思えるからだ。まあ、影響を与えているのだと考え始めると、ここからもっと不穏な方向へ歌詞解釈の舵を切ることもできなくはないのだが、一気に鬱になるからやめておこう。

一応鬱ストーリーのキーワードをピックアップだけはしておくと、「赤色」「怪音」「夜中」「秘密」「撃ちぬく」「応えて」「忘れて」、そしてこの並びだと「永久に逢えない」ももっと絶望的なニュアンスに変わる。

だからここは先に解釈したように、「わたし」のやや不安定な心の状態から来る行動の表現だと考えておくことにする。

「屋上の」から「密かに撃ちぬくの恋心」まで

この場面では「わたし」と「あなた」は一緒にいると考えたほうがしっくりくる。「クラブ」も一人でいる表現としては出てきにくい単語だし、急にモブが出てくるとも考えにくい。「秘密クラブ」とあるので、他の人は知らないのだろう。もしここが学校の「屋上」なのだとしたら、立ち入り禁止だから「秘密」なのか、時間的な問題で「秘密」なのか。

これも具体的な例をこれまでの流れを踏まえてあげておくと、天体観測かもしれない。このあたりが王道に青春っぽい。とはいえ中身は本当に何でもいい。UFOを呼んでいるのでも降霊術をしているのでも内なる宇宙に語りかけていたのだとしても、別に解釈に大きな問題はない。

「光線」は、ふと思ったのは「視線」のことを言っているんじゃないかということだ。ただ、「密かに撃ちぬくの恋心」がいまいちよくわからない。対象が「あなた」だとしたら、少なくとも撃ちぬけてはいない。実際に「あなた」がどう思っているのかはともかく、「わたし」にはそう感じられるはずだ。ということは「撃ちぬきたい」とか「撃ちぬいてやるんだ」というようなニュアンスかもしれない。

一方で、対象が「わたし」というのもよくわからない。「あなた狙う」の直後でもあるし、「撃つ」というのは自分からするアクションだ。自分で自分の恋心を撃ちぬく、と考えると恋を諦めることの表現という気もしないではないが。心に穴があく、という一般的な表現と結びつければ、確かにこういう解釈もできる。ただ、それだとやや唐突にも思える。

二回目のサビ

「応えておくれ」は応えてくれないからこそのセリフであり、「忘れておくれ」の前にはそれならいっそ、というような言葉をつければ理解しやすい。

このあたりでようやく、タイトルと歌詞の「アンドロメダアンドロメダ」を考えてみよう。

歌詞の中での「アンドロメダアンドロメダ」では、直後に「わたし」からの呼びかけのセリフがある。「応えておくれ」や「気づいておくれ」などだ。アンドロメダは銀河だ。そしてこの曲の中では、銀河とは「恋心」のことである。

つまり、「恋心」の応答を期待しての呼びかけだと考えられる。その対象は基本的には「あなた」だろう。

二回繰り返しているのは、無線などで感度が悪いときなどに「応答せよ」を繰り返すのに近いニュアンスとして捉えることができる。「もしもし」でもいいが。繋がりが弱くて届いているのかどうかわからないから、繰り返し言うわけだ。

というよりも、「銀河」が「恋心」なのだから、「あなた」の「アンドロメダ」が「応答」、つまり「応えて」きているとは考えられない。呼びかけにまったく応答がないからこそ、繰り返し何度も呼びかけるしかないのだ。しかし最後には「忘れておくれ」に変わる。

成就どころか想いが届くこともないまま曲は終わる。

だから最終的なまとめとしてはこうなる。

「あなた」の「宇宙」の中の、あるかどうかもわからないような「アンドロメダ」に向けて「応えておくれ」と繰り返し願う「わたし」の恋の歌こそが、ナユタン星人のボカロデビュー曲、「アンドロメダアンドロメダ」なのである。

ただ、これはこの曲単体で見た場合の話だ。

ナユタン星人の他の曲の歌詞を見てみると、どうも続きの物語があるように思えてならない。