ナユタン星人の1stアルバム『ナユタン星からの物体X』に収録されている全楽曲の歌詞解釈、考察をなんとか終えることができた。
ここでは簡単にアルバムの内容を振り返りつつ、解釈を終えてのナユタン星人の書く歌詞の特色などを考えてみたい。
そういえば曲によっては最後にテーマを一言でまとめようとしていたので、とりあえずそれを活用する方針でいこう。
まず一曲目、『アンドロメダアンドロメダ』。歌詞の内容としては、最も簡単に言うなら『片想い』。もう少し付け加えるとすれば、『あなたへの想いの応答を願う曲』となるだろうか。
二曲目は『ライブラ』。『大事な人との別れ』。どれほど大事なのかは歌詞を読めば伝わってくるはずだ。
三曲目、『飛行少女』。『日常の閉塞感への鬱屈』と表現した。非常に思春期っぽい歌詞だ。楽しくないほうの。
四曲目の『パーフェクト生命』は、『憧れとなる対象を目撃し、そこへ近づこうとする物語』。
五曲目は『エクストリーム空中戦』。『恋愛マウンティングバトル』とでも言っておけば案外そんなに間違ってない気がする。
六曲目、『水星のワルツ』。解釈が非常に難しいのであまり言い切ってしまいたくはないのだが、現時点での印象で言うなら、『再会することがほぼないであろう別れの曲』という感じがしている。
七曲目が、『ハウトゥワープ』。『自分でも理解しきれていない想いを伝えようとする曲』、といった感じだろうか。
八曲目、『アトミック恋心』。『原子と恋のお勉強』。
九曲目に『ロケットサイダー』がくる。『退廃からの前向きな現実逃避』、という印象。
そして最後の十曲目が、『ストラトステラ』だ。『暗闇に呑まれていくように光=彼女を失っていく僕の世界が、それでも残る小さな光を探す物語』とまとめれば、それほど間違っていないのではないか。
こうして振り返ってみると、ナユタン星人には恋愛の曲が多いというイメージは間違ってはいないものの、恋愛ものしかないわけでもないのがわかる。
それに恋愛要素が含まれていても、主題がそうとは限らないようだ。
もう一つ、ナユタン星人といえば青春っぽい歌詞というイメージもあるが、少なくともこのアルバムに関してはそのように感じる。
ただし年齢が明示されているわけでもないので、そうとしか考えられないというわけでもないのだが。しかし少年少女の物語が多い印象はあるし、登場人物の取れる選択肢が少なそうなのも、「大人」ではないからなのではないかと想像はできる。
そして宇宙関連やSF的な言葉が散りばめられた歌詞によってそれらを表現している。
このあたりがナユタン星人の歌詞におけるポップさを演出しているのだろう。
つまり多くの人は恋愛要素のある物語は好きだし、多くの人は思春期にいろいろな悩みや不満を抱いたであろうから、内容がなんとなく伝わってくるだけでも共感しやすい。
なおかつその伝え方が統一感のある比喩や暗喩であることにより、世界観を構築しつつ印象を和らげ、あるいは煙に巻きながらも、ぱっと聞いて面白く、このようにじっくり考えてみるのも興味深いような歌詞になっているわけだ。
だからそのポップな手触りの裏側も見てみたい。
先ほどのまとめの通り、受ける印象のわりにテーマはそれほど軽くない場合が多い。そして単純なハッピーエンドで物語が終わることはあまりない。
終わるとしたらそれは別れであり、しかし別れた後も日常は続く。ならそういった日常をどう耐えるか。
明確な終わりがないのは、歌詞の内容を現実世界のこととして捉えられるようにするためでもあるだろう。ナユタン星人の描く世界観は、ファンタジーのようでありながらやはり現実的なものなのだろう。
「ナユタン星からの物体X」というアルバム名は、意訳するなら「はるか遠い場所から届いたもの」なのではないかと以前に考察した。
ファンタジーという「遠くの物語」は、しかし現実的な「日常」を描いている。
ナユタン星人から届いたものとは、「日常」の中の出会いや別れや葛藤や困難のことなのだ。
しかし「遠い」理由はファンタジーの形をとっているからだけではないだろう。
そもそもの話として、人と人とのコミュニケーションには多くのすれ違いや誤解が当たり前のように含まれている。
その想いが伝わっていないという感覚を「彼方の宇宙」と言い換えることで相手の心への「遠さ」を表現したのが「アンドロメダアンドロメダ」だ。
となると人と人との心は天文学的な距離ほど「遠い」、というのがナユタン星人の考えの根底にあるのではないだろうか。
であれば、このアルバムは宇宙の彼方から飛来した微弱な電波のようなものだ。
読み取ろうとするのかどうか。
読み取れたのかどうか。
もちろん、小難しく考えずとも聞くだけでおそらく何かを受け取れるだろう。
それでいいとも思うが、考えてみるのもいい。
「観測はあなた次第」
こちらはこのように受信し、そしてこのように発信してみようと思うのだが、
果たして、この電波は誰かに届くのだろうか。