今回は「ナユタン星からの物体X」の五曲目に収録されている「エクストリーム空中戦」について考えていく。
この曲がシリーズものであるのは間違いない。「空中戦」とタイトルにつく曲がこの後に出たアルバムにもあるためだ。もちろん「X」発売時点でわかるものではないが。
歌詞自体は歌詞カードかネット検索かでなんとかして見てほしい。
これから歌詞の解釈をしていくが、具体例をあげることはあっても基本は抽象的に捉えていきたい。
ここで書くのは筆者の「思考」そのものだ。あまりに的外れだと思われるような解釈ははずしておくが、「答え」だけを書くということはしないしできない。断定的に言っていたとしてもどこまでいっても推測でしかないためだ。しかしもちろん、他の解釈を否定するものではない。
というわけで、考察を始めよう。
登場人物は二人だと思うのだが、今までの歌詞にあった、「わたし」もしくは「僕」という一人称は出てこないため、性別はわからない。「あなた」と主人公の関係はやはり恋愛状態のような気はするのだが。
問題は「空中戦」が何を指しているのかだ。二人の関係性についての話だろうとは思うし、ある種ディープな解釈もできるといえばできる。ただ、限定しすぎると別の解釈の可能性を見逃すこともあり得るので、なるべく広く考えたい。
しかし状況を確定させられるような情報が歌詞にかなり少ない。
わかるのは時間と、「あなた」と一緒にいるという状況が今日だけじゃなくよくあることだということくらいだ。室内かどうかすら限定はできないが、屋外とは考えにくい気はする。「オールナイト」という歌詞もあるし、一晩中二人で屋外にいる日がそう何度もあるとは思いにくい。
歌詞には「空中戦」っぽい言葉が出てくるのだが、まあ比喩だろう。深夜に「あなた」と空で戦っているとも思えないし。
というわけで、時間帯としては深夜。おそらくは室内。「あなた」と二人でいて、その状況は日常的にある。そして「空中戦」にたとえられるようなことをしている。
これを解釈の基本的な方向性として、歌詞を読んでいこう。
「繰り返すも・・・消耗戦」
さっそく、ぼろぼろになりながらも我慢比べのような戦いを繰り返しているという歌詞だ。
「頭が・・・してる」
これは精神状態のことだろう。「未だ」は言い換えるなら、「ずっと」だろうか。フワフワというところからは、現実感が薄れているような状態がイメージできる。
「虚実・・・錯綜温度で交わって」
エロい話か? と、この歌詞を読んでいると思ってしまうのだが、そうとは限らない。その意味でも別に間違いではないのかもしれないが。「錯綜温度」は二人の温度がぐちゃぐちゃに混ざっているような状態を思い浮かべられる言葉だ。この温度が体温なら、まあそういうことだろう。
しかし温度差という言葉もある。自分と相手との会話で話題に対する温度差を感じる、とかいうときの温度だ。錯綜には混乱のようなニュアンスがある。二人のしている行為(というとやっぱりエロい話みたいだが)は、極めて近い距離(温度を感じるほど)だが混乱気味で、どこか噛み合っていないというような印象だ。
「虚実混じる」のところは現実と対応するものが何かによって状況が変わってくる。現実の二人と、お互いがお互いに対して思うイメージのズレみたいなことかもしれないし、会話であれば事実とおおげさな発言などが入り混じっているということかもしれない。
いっそ二人が現実に一緒にいる部屋でテレビゲームをしている光景でも当てはまる。この解釈なら「空中戦」もゲームの内容ってことでいいし。まあそんなわけにもいかないんだけども。明らかに歌詞の焦点は関係性のほうだから。
「静と動のコントラスト」
これも、何が「静」で何が「動」なのかによって変わってくる。「虚」と「実」に対応しているのだろうとは思うのだが。全体的にどこか熱に浮かされたような感情を思わせるような歌詞だとは思うので、感情のほうが昂ぶっていて、しかし表面上はたいして動いていなかったり平静そうに振舞っているというような感じだろうか。その対比がある時間が、「午前2時」。深夜だ。
「飛び交うライト」
光は対象を見るためのものだ。つまり相手を見ようとしている。けれども飛び交っているということは、お互いに探しているような状態だと思われる。
「想定速度を更新中」
おそらく一番簡単な言葉は、「ヒートアップ」だろうと思う。歯止めが利かなくなっている状態。
「タンデム飛行」
二人乗り飛行のことだから、おそらく息を合わせるだとか、どちらかがどちらかに合わせる、委ねるだとかいうことが重要になるはずだ。それを「試み」ている。今までの歌詞からすると、ずっと。
「あなたと五分・・・関係性」
五分というのは対等というよりも未確定というような感じがする。「エクストリーム」は過激とか極限、極度というような意味らしい。
過激な関係性とそのまま言ってしまうとまたアレだが、要するに戦っているということだろう。おそらくは、お互いと。別に殴り合いをしている必要はない。口喧嘩である必要すらない。はたから見たらそれは普通に会話しているだけかもしれないが、その中にも実は戦いはあるものだ。
まあ戦いが具体的にどんなものなのかはそこまで重要ではないということだ。二人の間でよくなされている何らかの行為の中にある、精神的な面での戦いについての曲なのだと解釈すれば、少なくともそこまで間違っていないはず。
「痛み止めを・・・万全体制」
精神的な攻防なのだから、実際に何かを飲んだわけではないのだと思う。いわば心を意図的に麻痺させてダメージを感じないようにしているようなことだろう。そして「万全体制」からの「徹底抗戦」だ。完全にやる気。
「空中戦は・・・一切合切」
さらにここから戦いが始まるらしい。しかも一晩中。一切合切はなにもかもすべて、という意味なので、ここから何をするにせよ、言葉も動作も何もかもが戦いなのだということを言っているのだろうと思う。
「ラブとラブの・・・一進一退」
ラブの対象がお互いである以上、いわゆるどっちのほうがより好きか、みたいなことだろうか。一進一退はよくなったり悪くなったり。勝ちも負けもまだ決まる気配はない。
「どうしようか・・・一点突破」
一点突破で具体的に何をしようとしているのかは正直もうわからない。そもそも何をやってるのかもはっきりしない。とりあえず逆転を狙ってるらしい。
「ハイとローの・・・あなたと宙」
ハイとローという言葉こそが、これが二人の関係性についての戦いであるということを示している。どっちが上でどっちが下か。しかしこれもまた、いわゆる亭主関白とかかかあ天下みたいなこととも限らない。
さっき言ったようにどっちの好きがより上か、ということで戦っているとも取れるからだ。真面目に言うことか。
オールナイトからの、「時間も忘れて」なので意味はそのまま。
「あなたと宙」の部分は音で聞けば明らかにアレっぽい。ということはやっぱり二人でしていることもああいうことっぽい。
とはいえ、「宙」という漢字を当てているのは「頭が未だフワフワしてる」という歌詞と繋がる。
時間を忘れているということは夢中ということ。その状態ではまともに思考は働いていない。つまり頭がフワフワしている、宙に浮かんでいるような状態である、ということの表現を含めて「宙」という漢字を使ったのだろう。
「全方位型サーチライト・・・スキは与えない」
よく見えるライトもあるし敵が来ればすぐにわかる。見晴らしはいい。つまり戦いは優勢。「上空」という言葉からもそう思える。
そして今度はカタカナで「スキ」だ。こちらは「隙」と「好き」の意味があるのだろう。
「隙」のほうは付け入る隙を与えないということ。「好き」のほうはさっきの解釈から引き継げば、今現在はこっちの「好き」のほうが上であるような状況なので、相手の「好き」が逆転することは許さない、ということだろう。
「生命線的なシステム・・・ここは戦場」
生命線も救命胴衣も同じような意味だ。致命的な状況を防ぐためのもの。だが絶対的にそんなものはないのだから、いくら優勢でも逆転負けは充分にあり得る。油断は禁物だ。だからまだ、「一点集中」の必要がある。
「空中戦はここから」
同じ歌詞だが、まだ戦うらしい。今が何時なのかはもうわからないが。
「愛とアイの・・・一心一向」
カタカナの「アイ」は英語での「私」だと思われる。別の言い方をするなら、「エゴ」。さらに別の言い方をすれば、我が強いとかいうときの「我」だ。
いわば、ゆずるほうの「愛」ではなく、ゆずることができないほうの「愛」。やや子供っぽい「愛」だ。だからこそ争いがつきものなのかもしれない。しかし関係が壊れる方向には行っていないのだから、これはこれで悪くはないのだろう。
一心一向は心を散らさず一つのことに集中することらしい。この曲の歌詞の場合は、まさに「空中戦」に、ということ。
「どうしようか・・・一撃必殺」
一点突破が一撃必殺に変わっているが、意味はほとんど変わらないはず。
「アブソーブ全細胞・・・あなたと」
アブソーブは吸収するとか受ける、受け入れるなどの意味があるようだ。
ということは、戦いは「あなた」を受け入れることも含んでいる。自分のほうが上だと主張するだけではないということだ。
「終着はここから・・・最終形態」
オールラウンドは多くのことを巧みにこなすこと。あるいは万能。戦いを続けるうちにそういう状態に至ったことをもって最終形態と言っているのだろうか。戦い方がわかったということかもしれない。
「ラブとラブの争奪戦」
ここは前と同じ。つまりまだまだ戦っている。
「どうなろうが・・・制空権さ」
制空権は「上空」という言葉と通じる。要はやっぱりこちらの「好き」が上だということを示すために戦っている。
「どうなろうが知らない」のところは実際のところはどうなってもいいというわけではないのだと思う。
今までの「空中戦」で確かなことといえば、ずっと戦いが続くということ。言い換えれば、二人の関係性は揺らぎ続けてはいるものの、壊れてはいない。
ということは、「どうなろうが知らない」と言いつつも、おそらく関係性が壊れることは考えていない。
なぜなら「空中戦」に勝っても負けても、それが関係性が壊れることを示していないからだ。
もしかしたらそういう、関係性が壊れることがないことがわかったこの状態だから「万能」つまり何でもできて、だから「最終形態」なのかもしれない。
「さあ時間も・・・宙」
「宙」は頭がフワフワしている状態を示している。融け合うには二つ以上のものが必要なので、二人ともそのような状態だということだ。
時間を忘れて夢中で戦う二人の、思考が半分停止したような熱っぽい頭、というより感情が絡まり合っている状態を示している。
そして最後も、
「さあ・・・あなたと宙」
で終わる。つまり戦いは結局実質的には「終着」していない。
たぶん時間的には少なくとも朝になれば終わりはしたのだろうが。
では、まとめてみよう。
まず、タイトルの「エクストリーム空中戦」。
具体的な行為の中身はあまり考えなくて問題ない。「エクストリーム」という言葉からは、歯止めが効かない激しさや過激さのニュアンスがある。そして「空中戦」とは、二人のお互いへの好意的かつあまり制御できていない感情をぶつけ合うことを示している。
感情は激しいのだが、頭は宙に漂うようにフワフワしている。その状態で、どっちの感情が上かを示すための戦いをしている。
だから、「空中戦」なのだ。
そして内容としては、
関係が壊れないことを前提としてお互いの「好き」をぶつけ合うことをある種しんどそうに、しかしやはり楽しそうに表現している。
ある意味子供っぽい恋愛のしんどさと楽しさ、そして何よりその激しさを「空中戦」にたとえて究極的なまでに表した歌詞なのだ。
なんというか、このシリーズの曲を動画にしない理由がよくわかった。
感情面では確かにナユタン星人の歌詞の登場人物らしい、青春っぽさを感じるのだが、どうしても連想ゲームがある方向に偏っていく。
動画になっている他の曲と比べると、どうしても浮いてしまう。
それにこの曲の歌詞にはあまり切なさのような感情も感じない。そういう意味でも浮く。
解釈にはかなり苦戦した。わかりやすい解釈に引っ張られやすいのが一番の問題だ。いや、別にそれでもいいのだが、はっきりとした言葉を使わないことには必ず意味があるはずだと思うので、できれば具体的な行動などの解釈は一通りだけにはしたくない。
さて、次回は「水星のワルツ」こちらもシリーズものだろう。
なんというか、どうせまた苦戦するのだろう。