今回は「ナユタン星からの物体Y」の四曲目に収録されている『ダンスロボットダンス』の歌詞について考えていく。
MVでメガネをかけた姿が出てくるのは『パーフェクト生命』に続いて二つ目。なんとなくSF的な歌詞の内容で繋がっているような印象だ。
歌詞自体は歌詞カードかネット検索かでなんとかして見てほしい。
これから歌詞の解釈をしていくが、具体例をあげることはあっても基本は抽象的に捉えていきたい。
また、歌詞の一部分を抜き出してその意味などを考察しながらひととおり解釈した後に、改めて全体を考察するという形式を取る。
ここで書くのは筆者の「思考」そのものだ。あまりに的外れだと思われるような解釈ははずしておくが、「答え」だけを書くということはしないしできない。断定的に言っていたとしてもどこまでいっても推測でしかないためだ。しかしもちろん、他の解釈を否定するものではない。
そして敬称は略させていただく。
というわけで、考察を始めよう。
「DANCE! 自在の」~「ロボットダンス」
「DANCE」とはっきり言っているのだから、「ステップ」はダンスのステップのことでいいだろう。おおよそ「足さばき」のような意味で「ステップトゥステップ」と言っているのだと思う。
それが自在にできるのは「プログラムの範疇」らしい。要はそのダンスをできるように組み込まれているのだからできるのが当たり前、みたいなニュアンスだろう。
次に「YOU!」と呼び掛けているが、この対象は同じくダンスをしているかしようとしているかという者。しかしそちらのダンスは「呼吸を乱している」らしいことから「非効率的」だと評している。
その後「ロボットダンス」と言っているが、素直に捉えるならこの歌詞の語り手側がしているのがロボットダンスだということに、この時点ではなりそうに思える。
「LOCK! 交わして」~「インプット」
lockという単語はそれのみだと「錠前」とか「錠をかける」とか「閉じ込める」とか「固定する」だとかという意味になるが、lock eyes withだと「見つめ合う」という意味になる。「交わしてアイトゥアイ」という歌詞からしても、目と目を合わせていることを意味していると考えるのがしっくりくるのではないだろうか。
次の歌詞が「すでに次元も超えた戦場だ」とあるが、どう捉えるべきかが難しい。
まず「次元」だが、思い切り意味を広く取るなら、「ある一定の段階」と言い換えることができるだろう。確かに直接目を合わせることができる状況にあるのなら、いくつかの段階を越えてきたのだろうとは思える。
そこから少し踏み込むと、「二次元」とか「三次元」という捉え方もできるかもしれない。それでもいろんな見方ができそうではあるが、例えば「二次元」を平面である画面、「三次元」をリアルと捉えると、画面越しではなく直接会えるくらいにまで距離が近づいた、というような意味でも受け取れる。
そしてそのような相手の距離が近づいたところで、緊張やら不安やらを抱えてその相手と対峙している状況のことを「戦場」と表現しているのかもしれない。ミスをしたくないから探り合い、それで目を合わせることになれば「胸が高鳴り」「思考を乱す」。ここでの「アイ」は「わたし」と「eye」と「愛」の三つの意味が思いつく。おそらくそれらが重なっているのだろう。
「インプット」は情報の入力。つまり相手の目からいろいろな情報が自分の中に流れ込んでくるということだ。ただ、それによって「思考を乱し」「胸が高鳴っていく」のだから、冷静な分析という感じではなさそう。
「UP SIDE UP」~「YOU AND ME」
何というか、意味なんてあるの? と思ってしまうような部分だが、まず「UP SIDE」つまりup sideで「上側」の他に「(悪い状況のうちの)良い面」、「(せめてもの)救い」「(景気などが)上向き」「(ビジネスが)うまくいく」などの意味があるらしい。
そして「UP SIDE DOWN」は「上下逆さま」「乱雑な状態に」「完全に」「すっかり」など。
「DOWN SIDE」で「(肯定的な何かの)悪い面」。
「LEFT SIDE」は「左側」、「RIGHT」は「右」、「LEFT RIGHT」で「左右」、「UP AND DOWN」は「上下」や「行ったり来たり」や「良かったり悪かったりと浮き沈みが激しい」など。
ちなみに「LEFT」には「去る」や「残す」という意味があったり、「RIGHT」にも「正しい」など複数の意味がある。しかしこの歌詞の感じを見る限り、「左」と「右」を基本としたほうが良さそうに思える。
というかここの歌詞だけを抜き出して考えると迷走する予感しかしない。
そこで次の歌詞を先に参考にして考えてみよう。「ときめく心のモーション」の部分だ。「モーション」は「動き」や「運動」。
だから「DANCE」のステップのような動きをイメージさせつつも、おそらく「心の動き」のイメージもあるのだと思う。最後に「YOU AND ME」ともあるので、「二人の間での駆け引き」の様子の表現も含まれているかもしれない。
それが上に行ったり下に行ったり右へ行ったり左に行ったりと安定していない様子であったり、あるいは駆け引きにおける優勢や劣勢がすぐに入れ替わったりする様子であったりという感じだろうか。
「ときめく心のモーションが」~「ねえもっと 付きあって!」
ダンスと「心のモーション」はこの歌詞の場合は連動しているようなイメージで捉えて良いのだと思う。そもそも人の精神と肉体も相互に影響し合っているのだろうし。
それにプラスして「わたし」と「あなた」の関係もそこと連動していると思っていいだろう。
つまり、「心のモーション」が「あなたに共鳴して止まない」というのは、一緒に何か(ダンスに例えられそうな何かか、ダンスそのもの)をすることで同じような感情を得るというのが何度もあった、と考えることができる。単純に共感と言ってもいいかもしれないが、一緒に何か経験や体験をしているような印象が、例えとしての「ダンス」にはあるように思う。
二人が同じことを経験して、同じような感情を抱くようなことが何度もあり、それで「ときめく」ことになった、というような。
そしてその「共鳴」する心のことを「合理とは真逆のプログラム」と表現している。「合理」とは物事の理屈に合うこと。それの「真逆のプログラム」がこの場合は「心」や「感情」。特に「あなたに共鳴して動く心」のことだろう。
それを「知りたい」。だから「もっと 付きあって!」と言っている。
「ダンスロボットダンス」~「もーちょっと!」
「もーいいかい?」「まーだだよ」とあるので、発想のもとが「かくれんぼ」なのは間違いないと思うが、内容的にはそういう感じはあまりしない。気がする。
むしろ片方の呼びかけに対してもう片方が応答する、という要素を抜き出して歌詞にしているのだろう。
直接このような会話が二人の間で交わされているというより、こんな感じのことを思いながら二人でやり取りをしていると考えたほうが解釈の幅が広がるだろうか。
とはいえ基本的には「ダンス」として考えればいいのだろう。まあそれでも「ダンス」をどのように解釈するのかという話はあるのだが。
歌詞の流れを見る限り、「合理とは真逆のプログラム」を「知りたい」から「もっと 付きあって」と言った後なので、そこから一緒に「ダンス」をしていると考えると、「もーいいかい?」は「ダンス」を終わりにするかどうかという、おそらくは「あなた」側の問いかけ。そしてそれに対して「まだ」「もうちょっと」というのが「わたし」側の応答であり気持ちなのだろう、と解釈できそうだ。
「1.危ないことは」~「ドキドキさせないこと」
ロボット三原則を意識したのであろう歌詞だ。ロボット三原則はSF作家アイザック・アシモフという人物の小説で、ロボットが従うべきとして示された原則のこと。
だいたいの意味を一応書いておくが、調べれば出てくるので正確に知りたい方はそちらで。
一つ目は、ロボットは人間に危害を加えたり、人間への危険を見過ごしてはならない。
二つ目は、一つ目に反しない限り、人間の命令には従わなければならない。
三つ目は、一つ目と二つ目に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない。
これを短く簡単にしてわかりやすく柔らかく、かつまったく違うニュアンスに変えて歌詞にしたのがこの部分なのだと思う。
これまで別に、登場人物のどちらかもしくは両方ともがロボットだと考えて解釈はしてきていなかったのだが、もちろんSF的なロボットの恋愛のように解釈もできるだろう。
しかしやはりこの考察ではより広く意味を取りたいので、相変わらずその方向でここの歌詞も考えるし、それができるようになっている歌詞だと思う。
基本的にはやはりダンスなので、「危ないことはしちゃダメ」は「無茶はしないように」みたいな意味になるだろうか。
次の「指示には従うこと」は要するにダンスについて「言った通りにやって」と言い換えることができそうだが、恋愛の情景として捉えると逆方向から考えることで、「急に予想できないことをしないで」という意味での言葉としても解釈できそうだ。
「自分の身は守ること」はそのままだ。人間でもロボットでも変わりはないだろう。
そしてこの歌詞で追加されている「4.ドキドキさせないこと!」。
つまり1~3まではこの4のことを言っているのだろう。それらが守られないことによってドキドキしてしまう、ということだ。だから禁止しようとしているのがこの部分の歌詞。
もちろん恋愛についての歌詞なので、本気で禁止しようとしているわけでも本気で一切ドキドキしたくないわけでもないだろうが。
「PUNK! 覚束ない」~「シンキング」
「PUNK」と言えば音楽のパンク・ロックがまず頭に思い浮かぶ。スペルが違うがロックも歌詞に入っているし(音楽のロックのスペルはRock)。おそらくそこも掛けているのだろう。
パンクは「反体制的な思想を持つ音楽や文化」。あるいは音楽から離れると「無神経な」「ふてぶてしい」というような人の態度を表す言葉になる。
歌詞の流れや全体の意味から考えると、おそらく「反体制」が意味的に近いと思われ、「ルールや合理的思考、効率的なプログラムに反するような振る舞い(ダンス)」というような意味で使っているのではないかと思う。
続く歌詞も「覚束ないモーションなんて、プログラムの範疇外」となっていることもあるし。「覚束ないモーション」は「あなた」の動きのことと、「わたし」の心の動きのどちらのことも言っているのだろう。「プログラムの範疇外」は端的に「予想外」「想定外」、あるいは「未経験」みたいなこと。
「アイ 視界曇っている」の「アイ」はやはり一人称の「わたし」という意味と目の「eye」と「愛」。
要は「わたしの目が愛によって曇っている」のような意味だろう。
「再度取り返せるか シンキング」の「シンキング」は「考えること」や「思考」。
取り戻そうとしているのは「視界」だと思う。そして「視界が曇っている」理由は予想外な「あなた」の動きなどで「わたし」の心が翻弄されているから、となるだろう。それでどうしようかと考えているわけだが、何ともならなさそう。
ただ、「視界が曇る」というのは大きな見落としをしたとか重要なことに気づけなかったときに使う言葉だと思うので、そこまで大げさな話ではないかもしれないが、なんとなく「わたし」が何かミスをした、という雰囲気も少しある気がする。それで自分で「視界が曇っていた」ことに気づいて考えた、というような。
「UP SIDE」~「YOU AND ME」
歌詞自体は前と同じ。たぶん意味もほぼ同じだろう。ただ「シンキング」からの歌詞なので、試行錯誤の様子とも取れるかもしれない。いろいろ考えているとか、いろいろ試してみているとか。
「ときめく心のモーションは」~「ねえもっと 近づいて」
このあたりの歌詞は『パーフェクト生命』が思い出される。
『パーフェクト生命』・・・って何?
https://najiitishi.com/music/perfectseimei.html
しかしそちらの歌詞の意味を知っていなければわかりにくい歌詞、というわけではなさそうだ。
一度目は「ときめく心のモーションが あなたに共鳴して止まない」だったが、こちらは「ときめく心のモーションは あなたに伝わりやしないな」。
どちらも「わたし」の心がときめいているわけだが、一度目は「あなた」の動きや行動によって「わたし」がそうなる、という歌詞。
二度目はそれを踏まえて、「わたし」のときめいている心が「あなた」には伝わらない、という歌詞になっている。
次の歌詞は「呼吸や温度の意味なんて 知らない 要らない」だが、これまでの流れからすると「意味」というのが「思考」「シンキング」と関連している部分なのだと思う。
つまり最もシンプルに言うなら、「考えるな、感じろ」というあれだ。呼吸や温度の「意味」を考えるのを放棄するということの表現として、「知らない 要らない」と言っているのだと思う。
「呼吸」はこの歌詞でも一度出ているが、そこでは呼吸を乱していることに対して「なんて非効率的でしょう」と言っている。「意味」がわからない、というようなことを言っているわけだ。
その「わからない」から、考えるのをやめて、「知らない」「要らない」となり、最終的な答えとしては「ねえ もっと近づいて」。つまり呼吸や温度の「意味」を頭で考えるのではなく、実際に感じ取れる距離になるまで近づいて欲しい、ということだ。
「恋とは心のバグなのさ」~「もうずっと付きあって」
「バグ」はプログラムの作成者が意図した動きと異なる動作をする原因、という意味でいいだろう。
「恋」によって思考も乱れるし視界も曇るということだ。「それでも共鳴していたい」。
「バグ」なら本来予期していない動作のはずなので、「共鳴」つまり同じような「バグ」が相手にもあるかどうかはわからないが、そうであって欲しい。「わたし」の心が「あなた」によってときめいているように、「あなた」の心もときめいて欲しいと思っている。もちろん「わたし」に対して。そういう歌詞だと思う。
そのことを、「あなたとわたしの シンギュラリティ」という表現もしている。
「シンギュラリティ」は「技術的特異点」。人間の知能と同等のAIが誕生するタイミングのことだが、この歌詞では「心の同期」というか、まさに二人の「心の共鳴」そのもののことだと思う。
おそらく「わたし」側が当初ロボット的な存在で、「あなた」が人間的な存在。これはそのものと考えてもいいが、そういう性格や気質の人間と捉えてもいいだろう。
AIの知能は基本的にはまだ人間には追い付いていないが、これからどんどん差が縮まって、ある時点で完全に追いつく(その後追い抜いていく)、という認識になっているように思われるので、これをロボット的な「わたし」と人間的な「あなた」に置き換え、知能ではなく心と捉えれば、「わたし」の心が「あなた」の心に近づいていくような図として考えられる。そしてまったく同じになるそのポイントこそが「シンギュラリティ」だ。
「ダンス」は「あなたに共鳴してときめくわたしの心を知るため」というのがあったが、今はもう「共鳴していたい」というのが「ダンス」をする理由となっている。
「していたい」というのは持続的な表現なので、「もうずっと付きあって!」となる。もちろん付きあわせることになるので迷惑なのかもしれないという思いもあるから「ごめんね!」とも言っているが、「ずっと付きあって!」という気持ちのほうが強いから、謝りながらも願いを言わずにはいられないのだろう。
「ダンスロボットダンス」~「もーいいよ!」
「ずっと付きあって」の後であることを考えると、今度は「もーいいかい?」は「わたし」側の問いかけと考えたほうがいいのかもしれない。つまり一緒に「ダンス」できるかという誘いのようなイメージ。
一度目は「まーだだよ」。これが「あなた」側の返答。
そして二度目の「もーいいかい?」への「あなた」の返答が、「もーいいよ!」。
もちろん人により解釈は変わるだろうが、こう考えると全体の流れとして違和感が少ないのではないかと思える。
タイトルについて
ロボットダンスは知っている人も多いと思うが、いわば人間的な通常の滑らかな動きに対して、硬くて不自然な動きをわざとするダンス、というくらいの捉え方でとりあえずは良さそう。
ただ一方で、ロボットは効率的で人間は非効率的、という対比の仕方もある。その両方が意味としては含まれているような印象だ。
「わたし」がしているのがロボット的な効率的だが硬いダンスで、「あなた」がしているのが人間的な非効率的だが、言ってしまえば心を動かすダンス、みたいな感じではないかと思う。
二人ともが同じロボットダンスをしているのではないから、片方の「ダンス」には「ロボット」という言葉がつかない、だから「ダンスロボットダンス」なのではないかという考察ができるかもしれない。あまり確信はないが。「ダンス」と「ロボットダンス」が一緒に行われているという意味なのではないかということだ。
まとめ
物事を効率的に考えるいわばロボット的な「わたし」がそうでない人間的な「あなた」と「ダンス」そのものかそれに例えられるような何かを一緒にすることで、自分の心のときめきが「あなた」の動きや行動などに共鳴していることに気づく。
そしてその自分の心を知ろうと「ダンス」をするうちに、「あなた」にも「わたし」に共鳴して欲しいと思うようになり、これからずっと一緒に「あなた」と「ダンス」をし続けたいと望んだ。
それに対する返答は解釈次第だが、きっと・・・。
という感じ。かくれんぼやらロボット三原則やらパンクロックやらと、なかなかいろんな要素が入っているわりにちゃんと意味が通っているのが面白いところ。あと『パーフェクト生命』も。
途中の英語の部分は難しく考え出すとわけがわからなくなりそうなので割とあっさりと引き上げてしまったが、全体としての流れはだいたい合っている気がしている。
終わりに
動画にもなっていて、ナユタン星人のMVは文字も大きく表示されるため、その表示の仕方にもこだわっているのだろうと思う。
おそらくそれでアルファベット表記なのかカタカナ表記なのかを決めている部分もあるだろう。そしてもちろん歌詞なので文字数が限られたり足りなかったりということもあるはず。
しかし出来上がった歌詞や曲には違和感もなく、意味も通じるようになっている。それも多重に。
個人的に好きな表現が、「あなたに共鳴して止まないの!」の歌詞が最後のほうで変化したときに、「それでも共鳴して、いたいの!」というふうに「、」を入れているところ。耳で聞けばその効果ははっきりわかる。歌の流れが一瞬だけ止まることで、感情もせき止められる感じがあり、続く「いたいの!」がせき止められていた感情が一気に吐き出されるようで、より強く感情として伝わってくるように思う。
そしてもう一つ追加で思いついた考察を入れておく。
『パーフェクト生命』のとき、「心、至って エモーション」という歌詞が「心 痛くて もうどうしよう」と聞こえるようにしていることをナユタン星人自身が語っていることも書いたが、今回のこの部分の歌詞は表記によって「それでも共鳴して、痛いの」のように考えることもできるようになっているのだと思う。「共鳴していたい」と「共鳴して(心が)痛い」の二重の意味があるということだ。
やはり恋愛の「ドキドキ」は楽しい感情も苦しい感情も含まれているということなのだろう。
というところで「ダンスロボットダンス」の考察は終えよう。
ナユタン星人の曲の考察では、次は『エキシビション空中戦』。いろいろ気になる歌詞の空中戦のシリーズ二つ目。なのでいろいろ油断しないでおこう。