『パーフェクト生命』・・・って、何?




今回は「ナユタン星からの物体X」の四曲目に収録されている「パーフェクト生命」について考えていく。

この曲も動画になっている。ちなみに動画の上げられている時期によって夏服と冬服が変わってるっぽいのだが、この曲ではメガネが初登場している。ナユタン星人の関わっている動画で出てくるメガネはなんとなく意味がありそうな気もするのだが、とりあえずそれについては今回は見送ることにする。

歌詞自体は歌詞カードかネット検索かでなんとかして見てほしい。

ところでこの曲の場合は「ナユタン星からの物体X」の歌詞カードにあるおまけコーナー、「星人ひとことメモ」が役に立つはずだ。「楽しい曲にも悲しい曲にも聞けるように」ともあるし、そこは踏まえて考えたい。

これから歌詞の解釈をしていくが、具体例をあげることはあっても基本は抽象的に捉えていきたい。

ここで書くのは筆者の「思考」そのものだ。あまりに的外れだと思われるような解釈ははずしておくが、「答え」だけを書くということはしないしできない。断定的に言っていたとしてもどこまでいっても推測でしかないためだ。しかしもちろん、他の解釈を否定するものではない。

というわけで、考察を始めよう。

とは言ったものの、今まで以上に掴みどころのない歌詞だ。取っ掛かりを探すために、とりあえずよくわからない言葉を調べてみることにする。

「パラメータ」聞き覚えはもちろんあるが、一応調べてみたところいろんなジャンルにおいて使われているらしい。数学では媒介変数のことらしいが、そう言われたところで何もわからない。今までの傾向からするとナユタン星人は宇宙やSF関連の比喩以外ではもっとも一般的な意味合いで言葉を使うことが多いように思うので、ゲームのステータス画面のパラメータをイメージしておけばいいような気がする。とりあえずはそう思っておく。

「モーション」動作や行動のこと。

「フラストレーション」欲求が障害により満たされないような状態やそこからくるマイナスの感情。

「フラクション」政党が大衆団体などの内部に設ける党員組織、あるいは政党内の分派というような意味らしいが、本来の意味は破片とか断片みたいなことらしい。

「エモーション」感動、感情、情緒など。感情は喜怒哀楽のどれも含まれるらしい。なんというか、調べれば調べるほどよくわからなくなっていくような。

「テンション」緊張、不安。気分や気持ちのような使い方は誤用らしいが、一般語としてはそっちの意味のほうが通りやすいので、そういう使い方をしている可能性も否定できない。あとは張力も。

「シナリオ」物事の進行とか計画を実現するための筋道、あるいは脚本。

「アイソレーション」分離、独立、絶縁。これもいろんなジャンルで個別にいろんな使われ方をしている言葉だが、基本的な意味はこれでよさそう。

「デストラクション」破壊、絶滅、駆除、破滅の原因。(大量)殺人なんていう使われ方もあるらしい。

とりあえずカタカナを調べてみたが、これらを踏まえて歌詞を読んでみてもやはりわかるようでわからない。そもそもこれはSFとして読むべきなのか、あくまで現実世界の事象として捉えるべきなのか。

ともあれ今の段階で最も重要に思える歌詞は、この部分だ。

「呼吸 体温 匂い 実体 何もなくても」

これの解釈次第で歌詞の内容は大きく変わる。思いついているのは大きく2パターンだ。

そしてその2つのパターンを考えたときに目につくのがその手前。

「何光年 何次元 はなれていても」

つまり、物理的な距離の話か次元の話かの2パターンなわけだ。あるいはこの2つが混ざり合っていることもあり得るが、とりあえずこうなったらもうその2つの解釈を両方とも書いてみるしかない。

長くなるので覚悟しておいてほしい。

「枯れた・・・空に」

なんとなく世紀末っぽい描写だ。SFとして捉えるなら荒廃した土地であり滅びゆく世界、という感じだろうか。現実的に考えるなら、ピンクの空はもしかしたら黄昏の表現なのかもしれない。朝焼けかもしれないが。

実のところ現実的な解釈をするなら今いる場所は室内としておかないとなかなか難しい。その場合、花びらは室内でもいいが、ピンクの空は窓の外の景色ということになる。SFならその辺は特に気にしなくてよさそうだが。

「鈍い・・・管制塔」

SFの場合はそのまんまだ。管制塔が麻痺している。管制塔は通信の拠点みたいなイメージで捉えられるので、誰とも連絡を取ることができない状態であるということだ。この点に関しては現実的解釈でも同じ。カミナリのほうは、もしかしたら遠雷という意味合いだけではないかもしれない。

というのも、ナユタン星人の歌詞には別の曲でも同じ言葉を同じ意味合いで使うようなことが、かなりあるように見受けられる。同じ言葉ではないが、「アンドロメダアンドロメダ」のときに電気的な言葉を恋愛感情から来る行動なのではないかと解釈した。もしこの曲の歌詞にも同じように適用できるとしたら、「鈍いカミナリ」はそういった感情を求めつつも明確な向かう先を見出せないような心情を表現している可能性がある。となると管制塔が麻痺しているというのも、具体的な行動を取ろうと思えないやや後ろ向きな心情の描写という意味もあるかもしれない。

というかここまでの歌詞はすべて心情的な捉え方をするのであれば、つまりは斜陽ということだ。なんとなくゆっくりと滅んでいってしまうんだろうというような世界、心情、状況のことだと捉えておけば少なくとも間違ってはいないと思う。

だからこそ、「一縷の望み」という歌詞が来る。

「押したスイッチ・・・奇跡の生命体」

映ったという漢字を使うのだからそれは映像なのだろうとは思う。ということはスイッチは映像を映す機械のスイッチのはずだ。SFなら何でもありなので限定しにくいが、奇跡の生命体をそのまま地球外生命体のことにしてしまえば、映像はその生命体がいる場所のものだということになる。遠くから届いた映像を、手元にある機械で見ているという状況だ。

一方であくまでも現実に落とし込むのなら、パソコンかテレビかスマホかタブレット端末か、とにかくなんでもいいが手元にある電子機器のことになる。そして奇跡の生命体とは、言い換えるならば憧れの存在だ。もっともこのときがファーストコンタクトなら、憧れるきっかけを画面越しに見た、ということなのだろう。こちらも何でもいい。有名人が何かいいことを言って、それに感銘を受けてファンになったとか。アニメのキャラクターを一目見て好きになった、というのでも成り立つ。というか正直そっちのほうが歌詞には合っているような気がする。

可能な限り意味を広く取るならば、自分の救いになるように思える存在を画面越しに見た、ということになる。

「門外不出・・・モーションで」

大胆不敵なモーション、つまり動作のことだが、それによって自分のほうが心を掴まれているということは、自分がやりたかったけれどできていなかったようなことをその相手がしているということなのだろうと思う。

門外不出のパラメータは、何によってその相手がそのようにあれるのかがわからないが、とにかく自分にとっては凄いだとか尊いだとかという存在に見えるということだろう。そういう相手からの言葉だから、「蜜の味」なのだろうが、実際に画面越しに一対一のやりとりをしているとは限らないような気がする。歌詞全体で見ると、相手のほうが視点側の人物をあまり認識していない印象があるためだ。

「劣勢から・・・フラストレーション生命体」

つまり自分が劣勢という状況にあり、その状況が改善されることはないために不満など負の感情を抱えているということだろう。

「精神的安定は・・・フラクション状態」

精神的な安定がないのは自分のことなのだと思うが、問題は「あなたフラクション状態」のほうだ。おそらく「わたし」から見る「あなた」の状態を言っているのだろうが、フラクションという言葉の意味が取りにくい。

フラクション活動という言葉もあるらしいが、例えば政党が大衆団体などに党員を送り込んで宣伝、動員、勧誘などをすることのことだとか。つまりはある集団との繋がりを作るために組織が人を送り込んで、自分の組織の味方になってくれるような働きかけをするというようなことだろうか。

その意味で言うと、芸能プロダクションに所属している人がテレビに出ていることも似たような構図で捉えることができるかもしれない。組織の宣伝の意味も自然に含まれているわけだ。画面越しに同じようなことをする活動は現実にいくらでもある。二次元でも、制作会社は後ろにいるわけだし。

この意味だとすると、「あなた」が画面の向こうでしていることは、背景に何らかの組織の意向があるということになる。つまり組織の利益なんかが絡んでいることになるので、ある意味純粋なコミュニケーションではないと言うこともできる。

ただ、その意味だと決めつけられるかというと、また微妙なところがある。

フラクションを破片、断片というように捉えることもできるからだ。フラクション状態とは、一番簡単に言い換えるならばバラバラになっているものの一部である状態だということになる。

別にグロテスクな話ではなく、これは多様な側面を持っている人格の一部分のみを画面越しに見ている、というふうに理解できる。つまり相手が見せようとしている部分しか見えていないようなことだ。キャラとしてしか捉えられていないという言い方もできるかもしれない。二次元であってもリアルであっても。

「何光年・・・何もなくても」

先に書いたことだが、つまり「あなた」は「わたし」にとってバーチャルな存在に思えるということだろうと思う。本当にいるのかどうかわからないような存在だ。そう思う理由が、距離なのか次元なのかは、どっちとも言えるしどちらでもないとも言える。解釈の方向性次第だ。とにかく「わたし」にははなれているように感じられるということこそが重要なポイントなのだろう。

はなれていると感じられるから、「近づいてほしい」という願いが生まれる。

ところで「呼吸体温匂い実体」がないとすれば、逆にあるのは見た目とか声とか画面越しでもわかること、それから行動や話している内容だとかということになる。まさにバーチャルだ。

しかし実体もない存在に近づくなんてことはそもそもできるのか。というところが一つ重要なキーになる気がする。

とはいえ実体がなくても「心至ってエモーション」とあるように感情は動くわけだ。「星人ひとことメモ」によると「なにもなくても」からここの部分までの歌詞は「なにもなくてもう心痛くてどうしよう」とも聞こえるようにしたとのこと。楽しい感情も悲しい感情も含んだ歌詞だということだ。

「完全無欠の・・・夢の国」

SFで考えれば完全な別世界なわけだが、その世界は「完全無欠のカラクリ」によって成り立つ「夢の国」。これは現実で考えても問題はない。カラクリを機械と捉えるかシステムと捉えるかという問題はあるが、どちらかというと現実の場合ではシステムのほうが理解しやすいかもしれない。「夢の国」は理想郷のようなイメージだ。つまり「あなた」がいる場所は「わたし」からすると完璧なシステムによって成り立っている理想郷のようなところに思える、という意味になる。

「優柔不断な・・・仕方ない」

これは「わたし」の置かれた今の状況と「夢の国」との対比によって生まれる感情の表現だと思われる。心が揺らぐのは理想と現状の差が見えてしまうからだ。何か行動をしたいのだが、思い切れない。その心境はそのまま、「優柔不断」という言葉で表すことができる。

「千変万化の・・・選んでも」

これはおそらく「わたし」のほうのことだと思う。「あなた」のほうは「門外不出のパラメータ」なので、何をどう選択すればそのようになれるのかが「わたし」にはわからず、とにかく試行錯誤を繰り返すしかない。その結果として「わたし」の「パラメータ」は「千変万化」することになる。

つまりここでは「わたし」が実際に行動を起こしている状態を表しているのだと解釈できる。

ただし、「難攻不落のシナリオ」とあるように簡単にはうまくいかないし、「心を掴んではなさない」ということは常に失敗の不安を抱えることになる。

「牽制から・・・アイソレーション生命体」

ここも「わたし」の話だろう。「牽制」している状態から抜け出すための行動が「アイソレーション」なのだということだと思われる。要するに分離、独立、絶縁の意味の中で考えると一番近そうなのはやはり独立だろう。

では何からの独立なのかというと、SF的には今いる環境から脱するということ。物理的に滅びゆく世界から離れて新しい環境を目指すこと。現実的に考えるときには、心情的な独立の意味合いのほうが重要になる。言い換えるなら、自立だ。

「核心的肯定は・・・真実の愛」

愛は「あなた」に対する感情なのだろう。「核心的肯定」というのは「あなた」の存在そのものかもしれないし、「あなた」の状態に近づくための手段かもしれないし、「あなた」に対する「わたし」の想いかもしれない。

どれも本当に「肯定」できるかと言われたら実際のところは「わたし」にはよくわからない。「それでも真実の愛」であるというそこだけは「肯定」してもいいんじゃないか。と、そういうことではないだろうか。

「先天的優劣はない!」

「あなた」と「わたし」の間にあるように見える差は、「先天的」なものではないと言っているのだとしたら、重要なワードとして「後天的」というものが浮かび上がってくる。つまり努力などでその部分は補えるかもしれないということだ。

「わたしデストラクション生命体・・・全部を頂戴」

このあたりから先がいわばこの曲のメッセージなのだろうと思う。「デストラクション」は破壊の意味でいい。破壊する生命体という言葉だけだと暴力的だが、今までの流れから考えるとその意味は「自分の殻を破る」ということであり、「状況を打破する」ということであるはずだ。

その結果として「大本命の超展開」が来る。一番望ましい状況が訪れた、成功したということだ。

「パーフェクト生命」は憧れの存在を目指して努力をし、そして自分も成功するまでを描いた物語なのだ。

そう考えると、「あなたの全部を頂戴」という歌詞の意味もわかる。

画面越しに活躍している「あなた」に触発されて状況を変えるために行動を起こした「わたし」は、最終的に「あなた」に近い存在になれたような実感を得る。

つまり「あなた」のいる「夢の国」のような場所に行く方法は「わたし」が「あなた」と似たようなものになることだということだ。近い存在になりたいという意味を込めて、「あなたの全部を頂戴」と言っているのだろう。

一応付け足しておくが、似たようなものになるということは見た目とは限らない。同じような活躍をするということかもしれないし、またそのためには似たような努力もしなければならなくなるだろう。「あなた」もまた「わたし」と同じような努力をしてそこにいたのだということも、似た経験をすればわかってくる。

おそらくその意味も込めて、「もっと近づいてほしいのあなたには」と言っているのではないか。

この歌詞の最後のところは繰り返しではあるものの、一度目の「近づいてほしい」と二度目の「近づいてほしい」では今書いたように、ニュアンスが異なると思う。

一度目が「目指したい」という意味だとしたら、二度目は「理解したい」という意味合いが強くなる。

ただしこの後の歌詞でも「あなた」と「はなれてい」ることや「あなた」に「実体」がないことは変わらない。

つまり、「わたし」と「あなた」は少なくとも直接は一度も会っていないし、むしろ話したことさえなくても歌詞は成り立つ。それどころか「あなた」に「わたし」が認識すらされていなくても問題はない。

「あなた」に対する「愛」はあるし、「あなた」のおかげで成功もできた。そして「あなた」がどうやってそこに至れたのかもわかってきたという意味では近づけてもいる。けれど、会えはしない。

そこで最後の歌詞、「エモーション」だ。

成功はしても、楽しいだけではないということだ。

ではタイトルの「パーフェクト生命」とは何か。

そもそも生命はパーフェクトではない。「あなた」は「わたし」にとって完璧な存在に最初は見えていたかもしれないが、「先天的優劣はない」のだから、完璧に見えていたのはそう見せるための努力や工夫があったからだ。

だから、「パーフェクト生命」とは憧れの対象のことであり、偶像ではあるのだが、目指したいと思えるもののことだ。

ただ一つ気になるのは、歌詞の中で常に「生命体」と言っていたのに、タイトルには「体」の字がついていないことだ。

もしこれが「パーフェクト生命体」だったとしたら、それは存在している対象のことになる。

しかし「体」がはずれると、存在そのものというよりも在り方の話になる。

ということは先ほどの言葉を少し修正しなければならないだろう。

「パーフェクト生命」とは、憧れる生き方のことである。「生命体」なら偶像だが、この捉え方なら誰かが実践した一つの方法だ。それは見えたままではないにしても、ただの幻というわけでもないかもしれない。

SFなら自分を取り巻く危機的な環境を遠くにいる「あなた」がやったことや言ったことに刺激されて自分で変えていく物語になるだろう。

二次元として見るなら「奇跡の生命体」は二次元のキャラクターということになるが、「あなた」は現実の人間であり、別物だと捉える必要がある。キャラクターの向こうにいる現実の人間である「あなた」が憧れの対象であり、つまり「あなた」に近づくということは似たような「奇跡の生命体」を作りたいというような意味合いになる。

だからテレビの中の有名人とかのほうが理解しやすい。その人みたいになるためにいろんなことをやってみて、同じような活躍ができるようになるということだ。

ところで、タイトルの「パーフェクト生命」とは「あなた」に限定した言葉ではないかもしれないと思った。憧れの対象の生き方を目指し、同じような活躍をすることができるようになった「わたし」もまた、別の誰かから見れば同じように「パーフェクト生命」の実践者に見えるかもしれないからだ。

ようやくちょっと明るい歌詞になったが、やはりただ明るいわけではない。

それにしてもナユタン星人の感情や心情の描き方は面白い。一つの言葉なのに複数の感情が絡まり合っている。同じ歌詞であっても同じ意味とは限らない。

考え甲斐はあるが、難しくもある。状況すら一通りではないことが多いのだから、最低限全体の流れから矛盾しないようにすることだけは考えておく必要がある。

ともあれ何とかまとめることができたのは、良かった。

次回は「エクストリーム空中戦」。この曲の歌詞もなかなかいろんな意味で手ごわそうだと感じている。