今回は「ナユタン星からの物体X」の八曲目に収録されている「アトミック恋心」について考えていく。
この曲もシリーズものだ。「恋心」とタイトルにある曲が後に出ている。が、ストーリーとしての関係性は、どうだろうか。というかこの曲、いったいどこをどう解釈するというのか。
この曲と「エクストリーム空中戦」はアルバムの中でも新しく収録された曲らしい。最初に出たのが2015年11月で、新版が2016年夏。このときに二曲追加したのだとか。
歌詞自体は歌詞カードかネット検索かでなんとかして見てほしい。
これから歌詞の解釈をどうにかしてやっていくが、具体例をあげることはあっても基本は抽象的に捉えていきたい。
ここで書くのは筆者の「思考」そのものだ。あまりに的外れだと思われるような解釈ははずしておくが、「答え」だけを書くということはしないしできない。断定的に言っていたとしてもどこまでいっても推測でしかないためだ。しかしもちろん、他の解釈を否定するものではない。
というわけで、考察を始めよう。
まずは「アトミック」。
原子の、原子力の、とか極めて小さい、などの意味があるようだ。
『ボカロで覚える中学理科』という学研から出ているCD・PVがついた参考書のために書き下ろした曲ということで、この曲は原子・分子と化学変化について学ぶことができるのだという。
だからまあ、「アトミック」=原子と捉えておけばとりあえずは良さそうだ。
歌詞を一度眺めてみればわかるだろうが、元素記号や化学式が並んでいる。暗記法で語呂合わせはよくあるし、それなら曲と歌詞でやったほうが覚えやすいんじゃないか、ということだろうか。昔から結構ある気もするし。
と、ここで一つ気づいた。
この曲の歌詞を読解していこうとすると、筆者自身も中学理科を改めて思い出す必要があるのではないだろうか。それほど難しくはないとはいえ、すでに記憶の彼方だ。そもそも勉強嫌いだし。いや、そういう人のための曲でもあるんだろうけど。
でも読み解いていこうと思ったらひとつひとつの意味を書いていかなければならなくなる。これはやばい。
やばいがしかし、もうやるしかない。ネットで調べつつ、なんとか解釈していこう。解釈っていうか解説みたいになりそうだが。
「水素 H」
から後に並んでいる歌詞は、さすがに説明の必要はなさそうな気がする。元素と元素記号が羅列されている。暗記するのに便利な歌詞だ。なんとなく、日常生活で馴染みのある元素を選んでいる気はする。
最後に「アトミック恋心」と歌詞の中にもこの単語が出てきているが、現状読み取れることとしては、この曲の歌詞が恋心についてのものである、というくらいだ。
「電子」「陽子」「中性子」「3つ集まり始まりファンタジー」
「世界は単純な」「原子でできてる」
ここは原子の構造の説明と捉えていいだろう。「電子」「陽子」「中性子」の三つからできている、と。それぞれが何なのかまでの説明は求められても困る。それこそ教科書を見て欲しい。
「世界は」「原子でできてる」とあり、それは間違いではないだろうが、調べてみるといろいろややこしい。とはいえこれは中学理科だ。ややこしい話はもっと後で勉強してもらえばいいだろう。
歌詞解釈的な余地がある部分は、「3つ集まり始まりファンタジー」くらいだろう。「世界は単純な」「原子でできてる」が、そこから「ファンタジー」が「始ま」る。「ファンタジー」は「恋心」に関するいろいろだろう。心を惑わすこと、のような。もっと広い意味も含まれているかもしれないが。
「わたしとあなた」「出逢う前から感じたのディスティニー」
「手と手触れあえば」「まるで分子」
「分子」からその前の歌詞が読み解けるだろう。「分子」は「原子」が結びつくことによってできていて、それは化学結合とか電磁気力とかという話になってしまうので嫌。要は引かれ合うという理解でいい。「ディスティニー」は運命。
惹かれ合うことから結びつくまでを「出逢う前から感じた」ということであり、「手と手触れ合えば」結びつく、つまり「分子」のようになる。
「アトミックに恋してる」「わたし、不安定に揺れている」
「アトミック」=「原子」を「不安定」として、「わたし」がそういう状態であると言っている。実際、「原子」は基本的には単体では安定していない。真空とか単原子分子とかまたややこしいところには、踏み込まない。
「記号化された心まで」「解き明かしてよ」
「わたし」の状態を「記号」のように捉えるのではなくもっとよく見て欲しい、というようなことかもしれない。
もしくは逆に、「記号」ように一色に染まっているように思える「心」をほぐして欲しい、というようなことだろうか。
「アトミックな恋したら」「最小単位ラビリンス」
原子といえば、「最小単位」だ。実際はどうかわからないが。それはともかく歌詞としての意味を考えなければならない。
「ラビリンス」は迷宮。ということで、「アトミックな恋」で「最小単位」の迷宮が現れると。となると、おそらく「恋」によって自分の「心」が何がどうなっているのかわからないような状態になることの表現だろう。
「この恋の始まりくらいはさ」「覚えておいてね」
実はというかなんというか、この一文は非常に意味が入り組んでいるような気がする。
「恋の始まり」は「出逢う前から」「ディスティニー」を「感じた」と言っているということは、本当は会うより前ということになる。
でも会うより前に運命を感じたとはどういうことなのか。
で、先ほど解釈しようとした「記号化された心」というところから受ける印象と合わせて考えると、これはもしかしたらネット上でのやりとりのようなことが事前に行われていたことを意味しているのかもしれない。
そういえば学校も入学前にSNSなどですでにコミュニティが形成されていることが結構あるとかいう話をいつか聞いたような。別に歌詞に合うのはこのパターンしかないわけではないだろうが。
だが、だとすると「記号化された心」もネット上の文章から相手側が受けるイメージというような捉え方ができる。その関係性からもう一歩踏み込んで欲しいから、「解き明かしてよ」と言っているのかもしれない。
しかしもちろん別の考え方もできる。
ナユタン星人の歌詞において「会う」ではなく「逢う」の字を使うときは、より親密な状態で会うことを意味していると思われるためだ。
その考え方の場合、「出逢う」以前に「出会って」いても別に問題はない。
つまり先に直接知り合う機会があって顔見知り程度にはなっていてそのときに「ディスティニー」を感じて、後に親密な関係になり再び「出逢う」、というような流れで捉えても矛盾は生じないということだ。
そして「覚えておいてね」は、またいろいろややこしい。おそらく「原子」の知識についてこの曲を聞いた人に対しての「覚えておいてね」の意味もかかっているだろうし、ボカロで「覚える」中学理科、ともかけているのだろう。
ストーリーで言うなら先ほど書いたように、「出逢う前」の段階のことを言っていることになる。それを、「覚えておいてね」、と。
「Na ナトリウム」
語感以外でこれらを並べた理由を探すのは難しい。ないと断言はできないが、わからないのでさっさと次の歌詞に逃げる。しかしやはりよく聞く元素を挙げているような気はする。
「陽子 アンド 中性子」「合わせたソレは原子核」
ここはさすがに素直に「原子核」の説明と受け取ってもいいだろう。
「世界は単純な」「原子の気まぐれ」
「世界は単純な原子」で「できてる」かもしれないが、「気まぐれ」つまり偶然とか運命とか「単純」じゃない要素が含まれている、という意味に読み取れなくもない。
「わたしとあなた」「合わせたそれは何になる?」
「教えて少しだけ」「ふたりの化学式」
まずは、「化学式」という言葉の説明として読める。「わたし」も「あなた」も「原子」と例えられるので、「合わせた」なら「化学式」になる、という。
それを「教えて」と言っているのだから、近づきたいという想いを抱いていることになる。
「アトミックに恋してる」「わたし、不安定に揺れている」
「記号化された世界から」「連れ出してよ」
「記号化された世界」は、さっきの説を引き継げば、ネット上の空間のこととなる。広く捉えるなら、これはこういうものである、という常識や思い込みに縛られた「世界」となるだろう。いずれにしても「連れ出して」と「あなた」へ望んでいる。
「アトミックな恋したら」「最大限にラブなのです!」
「この恋の始まりくらいはさ」「忘れないでね」
後のほうは、さっきとおそらく変わらない。だから「最大限にラブなのです!」のところなのだが、意外と「ラブ」とは何かみたいな深いテーマに入っていけそうな歌詞だ。印象とは反対に。
まず、先に「最小単位ラビリンス」と言っているので、「最小」に対する「最大限」という歌詞だということになる。そしておそらくは、「ラビリンス」と「ラブ」も対応している。
歌詞の流れから考えると、「わたし」はいつも「不安定に揺れている」。その心の中のことを「最小単位ラビリンス」だと、おそらくは言っている。
それが「最大限にラブ」なのだというのは、つまり「恋」が本質的にそういうものだと言っているのではないだろうか。
「Fe 鉄」
最後に「あなた 恋心」となっている。ここはもう意味は感じて欲しい。感情で行って欲しい。
「単体 わたしだけの世界だったんだよ」
「H2 水素分子」「O2 酸素分子」
「原子」は基本的に「分子」の形で存在するので、一種類のみで「分子」を形成していることと、一人だけで「世界」が閉じていることを重ねているのだろう。
「化合物 だけど何かに触れて始まった」
「NaCL 塩化ナトリウム」「H2O 水」「CO2 二酸化炭素」
「化合物」とは二種類以上の元素が化学反応することで生成する物質とのこと。後ろの三つはまさに「化合物」なので、「わたしだけ」だった「世界」が「何か」に「触れて始まった」ということ。
何が始まったかといえば「ファンタジー」であり、おそらく「恋心」だ。
「何かがきっと変わっても」「不安定だって想いは」
「質量保存の法則で」「変わらないから」
「何かが」「変わ」るという歌詞は「化学変化」にかかっているのだろうが、しかし「不安定」だという「想い」は変わらない。
「質量保存の法則」とは、化学反応の前と後で物質の総質量は変化しないとするものだ。とにかく歌詞の意味としては「変わらない」を強調しているというところに尽きると思う。
「ずっとアトミックに恋してる」「最高潮に恋してる!」
「この恋もちいさなことからさ」「わかっていこうね」
「不安定」な「想い」が「恋」なのだという歌詞の内容だと読んできた。だから「不安定」という状態が「変わらない」のなら、「ずっと」「恋してる」ということになる。まさに「最高潮」だろう。
最後の、「ちいさなこと」にまた「原子」がかかっている。かかっているからこその「この恋『も』」だ。「わかっていこうね」は「勉強していこうね」と言い換えられる。
歌詞は以上。まとめよう。
つまり、「アトミック恋心」の歌詞は原子や分子や化学変化と、「恋心」の両方ともを勉強することができるように書かれたものである、ということだ。
どちらも忘れないようにと。
今回の歌詞については、中学理科ってどこまでなんだろうというところが正直一番の問題だった。
ネットで調べると明らかに中学レベルじゃなさそうな説明が大量に出てくる。
結果、まず自分が理解できない。
この「参考書」シリーズは続くので、今後が極めて不安だ。たぶん無理だと思う。
がしかし、次は「ロケットサイダー」。
人気のある曲だろうと思うし、結構解釈が楽しみな歌詞だ。