ナユタン星人が届けた物体Xとは何か?




ナユタン星人という宇宙人が地球にいるらしい。

そしてボーカロイド楽曲などの作詞作曲をしているらしい。イラストや動画なども作っているようだ。

2018年8月29日に三部作の完結編となるアルバム『ナユタン星からの物体Z』が発売すると発表された。

宇宙人周りの詳細も気になるっちゃ気になるが、そのあたりは深く突っ込むのはやめておくとして、ここでは主にアーティストとしてのナユタン星人に注目してみたい。

しかし音楽の知識はほとんどないので、それ以外の部分についての考察をしていく。

まずは、やっぱりここから始めるべきだろう。

2015年11月14日発売、2016年に曲が追加された新盤の出ている1stアルバム『ナユタン星からの物体X』だ。

だが、アルバムの中身について考察するよりも前に考えておきたいのが、そもそも『ナユタン星人』とはなんなのか? という点だ。

宇宙人だ。

で終わらせてしまっても別にいいんじゃないかという気もするが、ここはアーティストとしてのナユタン星人と宇宙人のナユタン星人をいったん区別して考えたい。

その意味で言えば、宇宙人のナユタン星人とはアイコンである。

ナユタン星人という名称の由来は、インタビューでの回答からの推測として、那由他から来ているのではないかと考えられる。

那由他は数の単位だ。一、十、百…と繰り上げていった先に出てくるのだが、兆の上の京あたりからほとんどの人はわからなくなってくるだろうと思う。

インタビューの中で、ナユタン星と地球はどのくらい離れているのか、という質問に対して10の60乗光年という回答がされた。

10の60乗を単位で言えば1那由他になるということで、おそらく由来はここからだろうと思われる。

那由他は仏教用語で、「極めて大きな数量」という意味だそうだが、別にナユタン星人と仏教を結びつける気はない。むしろ「極めて大きな数量」のほうが重要だ。

距離としての回答であることから、ナユタン星という名称からは「地球から極めて遠い場所にある星」という意味を読み取ることができる。

そして『ナユタン星からの物体X』は、意訳としては「遥か遠い場所から届いたもの」だ。

ナユタン星人の曲は、恋愛に関する歌詞が多い。そしてよく読んでみれば、そこには「届かない」ことによる切なさが含まれることが多い。これは物理的な距離ではなく、言ってみれば心の距離の話だ。

となれば題材は、恋愛だけではない。

人と人とのコミュニケーションについての話を、ナユタン星人は歌詞にして届ける。

届けているのだが、あまりにも遠い。届いているのかどうか、実際にはよくわからない。歌詞の中の登場人物だけでなく、ナユタン星人と我々受け手もコミュニケーションの発信者と受信者の関係として非常に似た構図になっている。

X、Y、Zの三部作ということで、『ナユタン星からの物体X』は序章のような位置づけと考えられる。

しかしアイコンとしての『宇宙人・ナユタン星人』はこの時点でほとんど完成している。

宇宙、SF関連のワードを歌詞に組み込み、音も動画も触れればすぐにナユタン星人であることがわかるように作られていることが多い。twitterでも、生活観のある発言などしない。

存在としてはゆるキャラに近い。そのわかりやすさこそがまさにアイコンなのである。

アイコンとは記号であり、象徴だ。

例えばゆるキャラならば見てかわいらしく、それでいて見ればそれがその土地の名物であることがわかるようになっていたりする。もちろん例外はあるけれども。

宇宙人という、「未知、遠い存在、異質な他者」と、那由他という単位を距離として捉えることによって現れる「遥か遠く」という意味を組み合わせたアイコンであるナユタン星人とは、コミュニケーション・交流という行為を今一度問い直すために生み出された存在である。

だからこれからその「届けられたもの」の中身を、できる限り丁寧に見ていく。

コミュニケーションが成り立ったのかどうかは、受け手次第であるところも大きい。

自分自身が良き受信者であれるよう注意しつつ、次回からは『ナユタン星からの物体X』に収録されている曲を、一つ一つ見ていきたい。